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東京高等裁判所 昭和48年(う)2768号 判決

被告人 熱田幸助

主文

原判決を破棄する。

本件を千葉地方裁判所に差戻す。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人伴廉三郎提出の控訴趣意書記載のとおりであるので、これを引用し、これに対し次のように判断する。

控訴趣意一の(二)は、原判決は、本件に森林窃盗についての森林法一九七条を適用しながら、被告人が伐採搬出したとされる松三〇本位につき、罪となるべき事実の項に、その所有者および占有者が何人であるかを認定判示しておらず、それが他人の占有する他人所有の財物であるのか、他人の占有に属する自己所有の財物であるのかすら明らかにしていない点において、原判決には理由不備ないし事実理由と法令理由とのくいちがいによる理由齟齬の違法がある、と主張するので、まずこの所論につき審案する。

原判決は、罪となるべき事実の項に、被告人は、原判示二筆の山林を自己が所有するものと信じていたところ、実兄伊藤清がその所有権を争つて、被告人の右山林に対する占有をはく奪し且つ立入を禁止する仮処分命令をえたため、被告人はたき物に窮し、右山林に生育する松三〇本位を伐採搬出した旨を認定判示しているにとどまり、原判示の山林所有者、従つて原判示松三〇本位の所有者が、被告人であるのか、あるいは被告人以外の他人であるのか、被告人の占有をはく奪する仮処分命令の執行の有無、その執行により右山林、従つて、原判示松三〇本位に対する占有が何人に移つたのかという点について、以ら認定判示していないこと所論のとおりであり、原判決の認定判示している事実だけで、被告人の所為が、果して森林法一九七条に該当するかどうかは全く不明であるから、原判決は、刑訴法三七八条四号にいう判決に理由を附さない違法があるものというべく、論旨は理由がある。

よつて、その余の控訴趣意に判断を加えるまでもなく、原判決は破棄を免れないから、刑訴法三九七条、三七八条四号により原判決を破棄し、同法四〇〇条本文により本件を千葉地方裁判所に差戻すこととして、主文のとおり判決する。

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